なぜ「ロゴだけ」の依頼を断るのか

CICATA代表の北本です。

「ロゴだけお願いできますか?」 そんなご相談をいただくことは、実はそれほど多くありません。

けれど、そう言われたとき、私は少し慎重になります。 本当はうれしいのです。声をかけていただけることは、デザイナーにとってとてもありがたいことだから。

でも同時に、「目的が見えないままロゴをつくることの難しさ」が、頭をよぎります。

ロゴは、つくるものではなく、見つけていくもの

ロゴは、ブランドの象徴です。 けれど“象徴”とは、「何かを象徴しているもの」であって、それ単体で意味をもつものではありません。

背景も、文脈も、これからどこへ向かうのかもわからないままでは、ロゴはただの“見た目”になってしまう。

私たちがつくりたいのは、「整っている」だけのものではありません。 「伝わる」ものであり、「使われていく」ものであり、やがて「育っていく」ものです。

だから私は、まず問い直します。 「なぜロゴが必要なのですか?」 「誰に、何を伝えるためのロゴですか?」

「ロゴだけ」の依頼をすべて断っているわけではありません。 事業へのこだわりや、これからの展望を丁寧に聞くことができたとき、 そのロゴが、単なる装飾ではなく、ブランドの最初の一歩として機能する可能性が見えてきます。

ロゴをつくる前に、必要なことがある

私たちは、依頼されたものをそのままつくるのではなく、 一緒に「何が必要か」を考えるところから始めたいと考えています。

「この人となら共に考えられる」と感じるのは、 信頼を寄せて、できる限りすべてを話してくださるクライアントに出会えたときです。

迷っていることも、不安も、まだ言語化されていない違和感も。 それらを一緒に見つめていける関係性こそが、良いものづくりにつながると信じています。

語らなくても伝わるロゴのために

ロゴをつくるというのは、私にとって“見つけていく”ような感覚があります。 時間をかけて掘り出した考えや想いが、象徴として形になるとき、 そのロゴは、単なるデザインを超えて、ブランドの一部として機能しはじめます。

私にとっての「いいロゴ」とは、語らなくても伝わるロゴです。 けれどその静かな強さの背後には、数えきれない対話と、 言葉にならない思考の積み重ねがあるものだと思っています。

「ロゴだけ作ってください」という依頼を断るのは、冷たさからではありません。 その一言の奥にある、本当の必要性を、一緒に探っていきたい。 それが、私たちのものづくりの始まり方です。

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